日本のAORの始まりとは [No.874]

友人から次のような趣旨のメールが届いた。ラジオのコンサート案内で「日本AOR の第一人者稲垣潤一」という紹介がされたが,稲垣潤一ではないだろう,しかし,だとすれば日本のAOR 第一人者とは誰なのか,教えてほしい。そこで,私が思い浮かべたのは次の2人だ。鈴木茂,Char。共に1976年発表のアルバム,『ラグーン』『Char』。この2枚が日本AOR の先駆ではないかと。さらに同年の南佳孝『忘れられた夏』。しかし,実際の日本のリスナーの感覚では,たぶんこれらとは別のある一枚こそAORを世に知らしめたという認識ではないだろうか。そのアルバムとは…。

さて,まずは,1976年と言えば,ご存知の通りボズ・スキャグス『シルク・ディグリース』発表の年である。やはりここから始めるのが最も分かりやすい。AORという言葉は,「アルバム・オリエンテッド・ロック 」もしくは「アダルト・オリエンテッド・ロック」の略語とされている。以前は,前者が元々の言い方で,後者は日本で考えられたと言われていた。ところが近年の雑誌などでは,両方の言い方がすでにアメリカにあって,どちらも使われるようになったらしいと書かれている(『レコード・コレクターズ2016年「黄金時代のAOR」特集』)。いずれにしても,若者のための音楽だったロックを,大人が聴けるものに仕上げたという点においては同様である。そこでボズ・スキャグズである。『シルク・ディグリーズ』のジャケットで,彼がスーツ姿なのは大人ロックのイメージ戦略だろうし,タキシード・コンサートなんていう企画も正しく大人の音楽だという分かりやすいプロモーションだった。

その『シルク・ディグリーズ』に影響を受けて日本から回答したのが『Char』『ラグーン』と思われる。特に,『Char』はジャケットからして,ボズの黒いスーツに対抗して白のスーツ姿,背景の海に対して山の富士山とはっきり影響が見える。サウンド的にも実に洗練されていて,汗臭いロックのイメージはない。鈴木茂『ラグーン』も,前作『BAND WAGON』で単身アメリカに乗り込みギターを弾きまくってきたミュージシャンの姿はすでにない。実にリラックスした作品である。南佳孝『忘れられた夏』も,前作『摩天楼のヒロイン』での松本隆プロデュースによる架空の都市でのある種演劇性を感じる作りから一転,全曲自作の歌詞で統一したリゾート的アルバムだ。これらが1976年のボズ・スキャグズへの日本からの回答と言える。

ところが,実際に日本でAORといえば,ボズ・スキャグズに代表されるような,黒人音楽に影響を受けて作られた白人向けのブラック・テイスト・ミュージックという認識は低いように感じられる。むしろ,聴きやすく甘いバラード系を思い浮かべる場合が多いのではないか。おそらく80年代に流行した耳障りのよい音楽類がAORとして認知されていったと思われる。例えば,シカゴ『素直になれなくて』辺りの楽曲である。したがって70年代後半からの音楽的に非常に高度でブラック・ミュージックの影響を受けたロックをAORの始まりとは受け入れていない可能性がある。

そう考えると,日本のAORの第一人者となると,寺尾聡となる。『リフレクションズ』である。もっともこちらは強者ミュージシャンを集めたかなり高度な音楽性を誇るアルバムだが,日本のAORの始まりと聴いて頭に浮かぶのはきっと1981年のこのアルバムだろう。稲垣潤一「ドラマティック・レイン」は1983年。日本におけるAORは80年代のもののようだ。
Char[UHQCD] - Char
Char[UHQCD] - CharLAGOON 2008-Special Edition- - 鈴木茂
LAGOON 2008-Special Edition- - 鈴木茂忘れられた夏 [Analog] - 南佳孝
忘れられた夏 [Analog] - 南佳孝REFLECTIONS - 寺尾聰
REFLECTIONS - 寺尾聰シルク・ディグリーズ - ボズ・スキャッグス
シルク・ディグリーズ - ボズ・スキャッグス

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この記事へのコメント

偉大なる詐欺師
2019年09月29日 22:48
ボズ・スキャッグスのベスト(「ジャパニーズシングルコレクション」というやつ。なかなかいい)を聴きながら書いてます。鈴木茂の「ラグーン」は収録曲を矢野顕子&ティンパンのライブで聴いた際に購入していましたが、中々”アーバンな”いいアルバムでした。そして寺尾聡!盲点でした。俳優業といい、ミュージシャンとしても絶好調の時期に出たアルバムでしたな。